プロスポーツにおけるマネジメントやチーム戦略は、長い間、過去の伝統に基づいた経験と勘で行われてきました。チーム体制を考える際、どの選手を指名しトレードするのか、また、試合中にどの戦術を利用するかは、厳密な統計や数学的分析ではなく、従来のマネジメントチームの知恵や経験がより重視されていました。しかし、現代のプロスポーツでは、スポーツアナリティックスが必要不可欠になっています。その有効性を証明したのが、オークランドアスレチックスのゼネラルマネージャーであるBilly Beanが、”セイバーメトリクス”(記録を統計分析することで野球選手を評価する手法)で成功した事例でした。
統計分析から重要な指標を読み取る
2003年に出版され、後に映画化された”マネーボール”で、Michael LewisはBilly Beanが統計を用いて、野球選手の評価方法に革命をもたらした方法について語っています。統計分析によると、従来の野球選手の評価方法では見落とされていた「出塁率」「長打率」が重要な指標であることが示されました。オークランドアスレチックスは、それらの能力が高い選手が他の球団では過小評価されていることに気づき、価値が高い選手を少ない費用でトレードすることに成功しました。
当時オークランドアスレチックスは、メジャーリーグの他球団とは異なる戦略をとっていましたが、彼らを成功に導いた”セイバーメトリクス”は、アメリカ全土で大きな反響をよび、その結果、野球だけではなくプロスポーツ業界の姿を変えました。
プロスポーツで利用される技術と分析手法
現在、多くのプロスポーツチームでは、分析の専門家を有しています。分析チームは、スカウトのメモや統計、その他多くのデータソースからデータを集め、管理し、リポジトリに保存しています。さらに、どの選手を指名し、トレードし、注目すべきかをマネージャーに伝えるために、さまざまな観点から調査、統計的分析を行っています。以下では、ビジネスインテリジェンス(BI)がプロスポーツで使用されているいくつかの事例をご紹介します。
フィールドセンサーの活用
フィールドセンサーは試合中の生データを集めています。過去のスポーツリーグでは、審判の判定の代わりにフィールドセンサーを導入するのをためらっていた時期もありましたが、現在では、その技術は広く活用されています。
企業は、試合中の動きや距離、スピードなどの指標を集めるために、用具に取り付けるRFIDタグなどを利用し、さまざまな方法を利用してデータを集めています。このデータは、チーム監督に試合中の各選手のパフォーマンスを伝え、また、今後の戦略決定のために利用されています。さらに、新たなセンサー技術が開発されたことで、まったく新しい指標が生まれました。例えば、MLBが使用しているStatcastがあります。これは、ボールの速度測定だけではなく、回転数も測定することができます。これらは、従来の指標と同じくらいの価値を提供しています。
ウェアラブル技術
ウェアラブル技術は、選手やトレーナーが身体作りの目標や進歩を把握するのに役立つほか、選手の怪我の記録、予防、発見などにも利用されています。
長期間集められたデータを分析することで、選手のパフォーマンスの基準値として使用することができます。この基準からのずれや異常なパターンがあるときは、選手に怪我やその他の原因によるパフォーマンスの低下がみられることを監督やトレーナーが知ることができます。問題が起きた時にスムーズこれらの分析を行うためには、データ分析官と監督との間に良い関係を築いておく必要があります。一流のアナリストであり、ウェブサイトadvancedfootballanalytics.comの創設者でもあるBrian Burkeは、「スポーツチームには、分析している以上に多くのデータがある状態です。そのため、チームには、そのことを理解し、転換点を見つけられる人が必要です。」と述べています。
優れたチームの結成
オークランドアスレチックスのBilly Beanは、より良いチームの作成のために、どのように統計を利用すればよいかを明確化しました。現代のデータサイエンスの時代では、スポーツチームはより高度な分析技術を駆使するために、多くのデータを扱っています。チームは、独自のスカウト方法を生み出し、また専門企業のサービスを利用しています。
バスケットボールを例にしてみましょう。チームは、選手の映像とデータを集めて、データベースに蓄積しています。試合映像には、選手のスキルや集約されたデータが簡単に分かるよう注釈がつけられています。このようなスポーツビジネスインテリジェンス(BI)を使用すると、たとえば、チームでアシスト数の多い選手を特定し、実際のプレイの中から、これらのスキルの例となるビデオを視聴することができます。
ファンを巻き込む
データや統計は、次第に専門家やスポーツチームの監督だけのものではなくなってきました。ファンは、よりエンターテイメントを楽しむために独自の分析を行っています。さらに、このような分析は人気のブックメーカーサイトでも使用されています。こうした中で、スポーツリーグは、統計や新しい形式のデータを使用してファンを引き付ける方法を見つけるようと、分析に対して大きな関心を示しています。
チームがインターネット上で有名なデータに精通したファンを雇うことも珍しくありません。元ゼネラルマネージャーでトロントラプターズの社長であるBryan Colangeloは、スポーツチームのオフィスにデータ分析の専門家を雇うことは合理的であるとし、次のように述べています。「現在、分析には多くの機会を見つけだす可能性があります。もし、フルタイムの分析担当者たちに支払っている金額が250万ドルにも満たないのであれば、それは明らかに不足しています。」
分析ポジションにファンを雇うメリットは、彼らがすでにスポーツと統計について理解しているからです。これらのスキルをもとに、データに精通したファンは、データ分析を通じてチームマネジメントに繋げられる最適な人材となります。
スポーツアナリティクスの未来
『データ文化』がプロスポーツの世界に浸透するにつれて、スポーツマネジメント世界では最先端のテクノロジーやトレンドをさらに利用するようになるでしょう。選手が身に着けた遠隔監視装置から大量のデータを取得できるようになれば、マネジメント層は大変興味をもつはずです。これらのデータは、練習中や試合中に集められ、選手のパフォーマンス情報の作成に使用されます。また、このデータはスカウト担当者にとっても大きな価値があり、収益化することも可能です。いずれは大学の陸上競技チームとスポーツチームがこのデータをスカウト担当者に販売するなど、優れた選手を獲得するためのデータ市場が生まれるでしょう。
他の傾向として、GMなどのチーム管理者が専門家を必要とせずに分析が行えるようにすることもあります。これは、多忙なスケジュールで、分析担当者と意思決定者が会う時間が無いようなケースで役立ちます。例えば、Botのような技術ならいつでも利用することができ、チーム管理者からの質問に回答することが可能となるからです。しかしながら、これらのシステムには限界があり、より複雑な分析には常に人の専門家が必要となるのは変わりません。
スポーツチームにおけるタイムリーで実用的な情報を分析で利用することで、多大な利益を生む新たな産業が生みだされました。その結果、多くのチームにおいて自由に使える資金が増加し、新しい技術の調査や開発に投資するようになるでしょう。やがては、プロスポーツ業界が分析業界を牽引していく日が訪れるかもしれません。
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